行列式が表すもの|平行四辺形の面積、平行六面体の体積、向き
行列式は、行列の列が張る図形の「大きさ」を表します。2 次なら平行四辺形の面積、3 次なら平行六面体の体積です。
符号までついているので、面積というより向きつきの面積です。負の値は、2 本のベクトルの並びが裏返っていることを教えます。
線形写像の側から見ると、行列式は面積や体積が何倍になるかという拡大率です。 になるのは、図形が潰れて次元が落ちるときです。
<svg viewBox="0 0 460 230" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="230" y="22" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">単位正方形が平行四辺形に移り、面積は |det| 倍になります</text>
<rect x="60" y="120" width="60" height="60" fill="#9a9a9a" fill-opacity="0.15" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></rect>
<text x="90" y="156" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">1</text>
<text x="90" y="200" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">単位正方形</text>
<line x1="150" y1="150" x2="200" y2="150" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></line>
<polygon points="204,150 195,146 195,154" fill="#9a9a9a"></polygon>
<text x="177" y="141" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">A を掛ける</text>
<polygon points="240,180 330,150 370,90 280,120" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.15" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></polygon>
<line x1="240" y1="180" x2="330" y2="150" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<line x1="240" y1="180" x2="280" y2="120" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<text x="336" y="146" font-size="11" fill="#1b81e0">1 列目</text>
<text x="262" y="112" font-size="11" fill="#1b81e0">2 列目</text>
<text x="305" y="152" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">|det A|</text>
<text x="305" y="212" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">2 本の列が張る平行四辺形</text>
</svg>2 次元では平行四辺形の面積
2 次の行列の列を 、 とします。この 2 本が張る平行四辺形の面積は、行列式の絶対値です。
底辺と高さで確かめられます。 を底辺に取れば長さは 、高さは のうち に垂直な成分の長さです。
と のなす角を とすれば面積は で、これを成分で書くと上の式になります。
例:面積を求める
列が と の行列を取ります。
行列式は です。したがって、この 2 本が張る平行四辺形の面積は になります。
方眼紙に描いて数えても同じです。外接する長方形から、まわりの三角形を引いていけば が出てきます。
符号は向きを表す
行列式が正なら、第 1 列から第 2 列へ反時計回りに測った角が より小さい並びです。負なら時計回りになります。
面積そのものは絶対値ですが、符号には情報があります。写像が向きを保つか裏返すかを、この符号が判定します。
鏡映は向きを裏返すので、行列式が負になります。回転は保つので正です。
例:列を入れ替えると符号が変わる
さきほどの 2 本を逆に並べます。
行列式は です。絶対値は変わらず、符号だけが反転しました。
同じ平行四辺形を表しているので、面積が変わらないのは当然です。変わったのは 2 本をたどる向きだけです。
3 次元では平行六面体の体積
3 本のベクトルを列に並べた行列の行列式は、それらが張る平行六面体の符号つき体積です。
符号は右手系か左手系かを表します。3 本を右手の親指・人差し指・中指の向きに取れれば正、鏡に映した並びなら負です。
<svg viewBox="0 0 460 220" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="230" y="22" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">3 本のベクトルが張る箱の体積が、行列式の絶対値です</text>
<polygon points="150,150 250,150 300,120 200,120" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.1" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></polygon>
<polygon points="150,150 250,150 250,90 150,90" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.14" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></polygon>
<polygon points="250,150 300,120 300,60 250,90" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.18" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></polygon>
<polygon points="150,90 250,90 300,60 200,60" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.08" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></polygon>
<line x1="150" y1="150" x2="250" y2="150" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></line>
<line x1="150" y1="150" x2="200" y2="120" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></line>
<line x1="150" y1="150" x2="150" y2="90" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></line>
<circle cx="150" cy="150" r="3" fill="#1f1f1f"></circle>
<text x="255" y="166" font-size="11" fill="#1b81e0">1 列目</text>
<text x="205" y="134" font-size="11" fill="#1b81e0">2 列目</text>
<text x="112" y="94" font-size="11" fill="#1b81e0">3 列目</text>
<text x="230" y="200" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">符号は、3 本の並びが右手系か左手系かを表します</text>
</svg>例:平行六面体の体積を求める
、、 の 3 本が張る箱を考えます。
余因子展開でもサラスの方法でも、行列式は になります。体積は です。
3 本とも長さは ですが、互いに ずつ傾いているので、立方体よりずっと平たい箱になります。長さの積 より小さい値が出るのは、そのためです。
拡大率としての行列式
視点を変えて、 を線形写像と見ます。単位正方形は、 の列が張る平行四辺形へ移ります。
面積は から になりました。線形写像は図形を一様に引き伸ばすので、この比はどの図形でも同じです。
正方形でも円でも、面積が測れる図形ならすべて成り立ちます。3 次元以上でも、体積について同じことが言えます。
例:図形の面積が何倍になるか
さきほどの で、半径 の円を移します。円は楕円に変わります。
もとの面積は 、 なので、移った楕円の面積は です。楕円の軸の長さを求めなくても、面積だけは即座に分かります。
面積 の三角形を移せば になります。図形の形によらず、倍率は で共通です。
例:せん断は面積を変えない
形は大きく変わるのに、面積が変わらない写像もあります。
行列式は です。単位正方形は、上辺だけが右へ ずれた平行四辺形に移ります。
底辺の長さは のまま、高さも のままです。だから面積も で変わりません。上に積んだカードの束を横へずらしても、全体の体積が変わらないのと同じ理屈です。
回転も同じで、行列式は です。長さも角度も変えないのだから、面積が保たれるのは当然です。
積の公式は拡大率の積
行列の積は、写像を続けて施すことにあたります。面積は 2 回とも倍になるので、倍率は掛け算です。
行列式の積の公式が、幾何の言葉ではこう読めます。成分で証明すると面倒な等式が、拡大率の話としては当たり前になります。
例:変換を続けて確かめる
方向に 倍する写像と、もうひとつの写像を続けます。
、 です。積を計算します。
で、 と一致します。面積が 倍になったあと 倍になる、という順序どおりの結果です。
行列式が 0 なら潰れる
は、列が張る図形の面積が だということです。2 次なら 2 本が同じ直線上に乗り、平行四辺形が潰れます。
写像の側から見れば、平面全体が直線に押しつぶされます。像の次元が落ちるので、もとに戻す写像は作れません。
行列式が でないことと正則であることが同値なのは、この事情です。潰れてしまえば情報が消え、復元できません。
例:直線に潰れる変換
次の行列では、第 2 列が第 1 列の 倍です。
行列式は です。列が張るのは平行四辺形ではなく線分だけになります。
実際、どんな点を掛けても行き先は の定数倍です。平面全体が 1 本の直線に落ちます。
逆行列の行列式は逆数になる
の両辺で行列式を取ると、 です。
面積を 倍する写像を元に戻すには 倍すればよい、という話です。 で逆が作れないことも、 倍を元に戻せないこととして読めます。
三角形の面積にも使える
原点と 2 点が作る三角形は、平行四辺形のちょうど半分です。したがって面積は行列式の絶対値の半分になります。
原点を通らない三角形でも、1 つの頂点を基準にして 2 本のベクトルを作れば同じです。
例:3 点から三角形の面積を求める
、、 を頂点とする三角形を考えます。第 1 の点を基準にすると、2 本のベクトルは と です。
面積は です。座標から直接、割り算ひとつで求まります。
例:3 点が一直線に並ぶとき
、、 で同じことをします。基準を第 1 の点に取ると、2 本のベクトルは と です。
行列式は で、面積も になります。3 点が一直線上にあるので、三角形が潰れています。
3 点が同一直線上にあるかどうかの判定に、この計算がそのまま使えます。傾きを比べるより、割り算が出てこないぶん扱いやすくなります。
多重線形性と交代性の幾何的な意味
1 本のベクトルを 倍すると面積も 倍になります。行列式が各列について線形である、という性質の中身がこれです。
2 本が同じなら平行四辺形は潰れ、面積は です。同じ列があると行列式が になる、という性質にあたります。
ある列に別の列の定数倍を足しても、面積は変わりません。底辺を保ったまま、頂点を底辺と平行に滑らせているだけだからです。行基本変形で行列式が変わらない理由も、この図で見えます。
高い次元でも同じことが言える
次では、 本のベクトルが張る図形の 次元体積が行列式です。目には見えませんが、性質はそのまま引き継がれます。
拡大率としての読み方も変わりません。 次元の領域の体積は 倍になります。
ヤコビアンとのつながり
曲がった変換でも、狭い範囲では線形写像で近似できます。その近似の行列がヤコビ行列で、行列式が局所的な拡大率です。
重積分の変数変換で を掛けるのは、この理由です。詳しい扱いは重積分の記事にあります。
他の話題とのつながり
行列式の性質そのものは行列式の基本性質の記事に、 次の計算方法はサラスの方法の記事にあります。
2 本のベクトルの外積は、大きさが平行四辺形の面積になります。3 次元の行列式は、外積ともう 1 本の内積として書けます。












