行列と図形の変換|拡大・回転・鏡映・せん断・射影を行列で書く
平面の点を平面の点へ送る操作のうち、行列 1 つで書けるものを一次変換といいます。
拡大も回転も鏡映もせん断も、すべてこの形に収まります。違うのは 4 つの数だけです。
行列を見てどんな変換かを言い当てる方法があります。列を読めばよいのです。
一次変換とは
2 次の正方行列 を決めると、点 に を掛けて別の点へ送る操作が決まります。これを が定める一次変換といいます。
原点は必ず原点へ行きます。零ベクトルにどんな行列を掛けても零ベクトルだからです。
もう 1 つ大事な性質があります。和とスカラー倍が、変換の前後で保たれます。
この 2 つがあるおかげで、変換の様子は少ない情報で決まってしまいます。次の節がその話です。
行列の列は基本ベクトルの行き先
軸方向の長さ のベクトルを 、 軸方向の長さ のベクトルを と書きます。
を掛けてみます。 は成分が なので、掛け算の結果は の第 1 列そのものです。
行列の列は、基本ベクトルがどこへ飛ぶかを書き並べたものだったわけです。
しかもこの 2 本の行き先だけで、変換全体が決まります。どんな点も と書けるので、和とスカラー倍が保たれることから行き先が出るからです。
行列を読むときは、まず列を 2 本の矢印だと思ってください。それが変換の正体です。
例:列を読んで変換を言い当てる
次の行列がどんな変換かを考えます。
第 1 列は です。右を向いていた が、真上を向きました。
第 2 列は です。真上を向いていた が、左を向きました。
どちらも反時計回りに 度ぶん回っています。この行列は 度の回転を表していた、ということになります。
例:変換から行列を作る
こんどは逆向きです。「 軸方向に 倍、 軸方向に 倍する」変換の行列を作ります。
は 軸方向なので 倍されて へ行きます。 は 倍されて です。
この 2 本を列に並べれば完成です。
言葉で書かれた変換を行列に直す作業は、いつでもこの手順で済みます。基本ベクトルの行き先を 2 つ調べ、列に並べるだけです。
拡大と縮小
対角行列は、軸ごとに伸び縮みさせる変換です。
が 方向の倍率、 が 方向の倍率になります。 なら全体が一様に拡大され、図形の形は変わりません。
倍率が負なら、その向きについて反対側へ折り返されます。 なら原点に関する点対称です。
回転
原点のまわりに角 だけ反時計回りに回す変換は、次の行列で書けます。
列を確かめます。第 1 列は で、これは を だけ回した先です。
第 2 列 も、 を だけ回した先になっています。列を読むという方針が、ここでもそのまま効きます。
度を入れると、前の例で見た行列に戻ります。
鏡映
直線に関して折り返す変換です。 軸に関する鏡映なら、 は動かず、 が下を向きます。
原点を通り 軸と角 をなす直線についても、同じ考え方で書けます。
角が になるのは、折り返しでは反対側まで回り込むためです。 を入れれば 軸に関する鏡映に戻ります。
例:直線 y = x に関する鏡映
度の場合を、列から作ってみます。
は 軸上にあり、折り返すと 軸上へ移ります。行き先は です。
は逆に へ移ります。2 本を並べます。
上の一般式に 度を入れても同じ行列が出ます。、 だからです。
せん断
一方の軸を動かさず、もう一方を軸に沿ってずらす変換をせん断といいます。
第 1 列が なので は動きません。第 2 列が なので、 は高さを保ったまま横へ だけずれます。
正方形が平行四辺形へ倒れる形の変換です。トランプの束を斜めに崩したときの動きが、これにあたります。
高さが変わらず底辺も変わらないので、面積は保たれます。行列式が であることと対応しています。
射影
平面をまるごと 1 本の直線へ押し潰す変換もあります。 軸への正射影がその例です。
は動かず、 は原点へ潰れます。どんな点も 座標を捨てられて 軸に落ちます。
行列式は です。面積を持っていた図形が線分になるので、面積の倍率が になったと読めます。

平行移動は一次変換ではない
図形を横へずらす操作は、行列では書けません。原点が原点へ行かなくなるからです。
が へ移ってしまいます。一次変換の最初の性質に反しています。
平行移動を含む変換をまとめて扱いたいときは、座標を 1 つ増やして の形で持たせます。3 次の行列で書けるようになり、同次座標と呼ばれます。
図形の描画では、回転と平行移動を同じ形で扱えるこの方法がよく使われます。ただし平面の中だけで考えるかぎり、平行移動は一次変換の外にあります。
行列式が面積の変わり方を表す
単位正方形は、変換によって 2 本の列が張る平行四辺形へ移ります。この平行四辺形の面積が、行列式の絶対値です。
つまり行列式は面積の倍率です。せん断で 、射影で になったのは、面積が保たれたことと潰れたことに対応していました。
符号にも意味があります。負なら向きが裏返り、鏡映のように裏返しの図形になります。 軸に関する鏡映の行列式は でした。
面積との関係を詳しく見るのは、行列式が表すものの記事です。ここでは変換を見分ける手がかりとして使います。
変換を続けると行列の積になる
で送ってから で送る、という 2 段構えは、 という 1 つの行列で書けます。
先に働くほうが右に来ます。書く順と働く順が逆になるので、そこだけ注意します。
行列の積で交換法則が成り立たないことは、変換の側では当たり前に見えます。回してから折り返すのと、折り返してから回すのでは、結果が違って当然だからです。
例:鏡映を 2 回すると回転になる
軸に関する鏡映を 、直線 に関する鏡映を とします。
を先に施し、 を後から施す変換は です。計算します。
度の回転が出てきました。2 直線のなす角は 度で、回転角はちょうどその 2 倍です。
灰色の図形を 軸で折り返すと橙、それをさらに で折り返すと青になります。青は灰色を 度回したものです。
裏返しを 2 回すれば表に戻る、と考えれば納得できます。行列式も で、向きが元に戻っています。
例:順序を変えると結果が変わる
同じ 2 つを逆の順で施します。 が先、 が後なので です。
こちらは 度、つまり時計回りに 度の回転です。先ほどと逆向きになりました。
2 直線のなす角を測る向きが入れ替わったため、回転の向きも入れ替わったわけです。順序が結果を変えることが、図形の上で見えています。
逆変換は逆行列
による変換を元に戻す変換があれば、その行列は です。行って戻れば何もしないので、積が単位行列になります。
行列式が でなければ逆行列があり、変換は戻せます。回転・鏡映・せん断・拡大は、どれもこの仲間です。
行列式が のときは戻せません。潰れてしまった情報を復元する方法がないからです。
例:射影は戻せない
軸への射影で、点 と点 の行き先を調べます。
どちらも 座標を捨てられて へ行きます。違う 2 点が同じ点に重なりました。
行き先から出発点を言い当てることはできません。逆変換が存在しないのは、この重なりが理由です。
行列式が であることと、こうした重なりが起きることは、同じ事実の言い換えになっています。
直線は直線へ、平行は平行のまま
一次変換で図形がどこまで崩れるかには限度があります。直線は直線へ移ります。行列式が の場合には点へ潰れることもあります。
平行な 2 直線は、移った先でも平行です。同じ方向ベクトルを持つ直線どうしは、その方向ベクトルの行き先も同じになるからです。

方眼をせん断で送ると、まっすぐな線はまっすぐなまま傾きます。縦の線どうしは傾いたあとも互いに平行で、間隔も等しいままです。
線分の中点は、移った先でも中点のままです。長さの比が保たれるので、内分点はどこであっても比を保ちます。
いっぽう、長さそのものと角度は一般に保たれません。保たれるのは回転と鏡映だけで、せん断では角度が、拡大では長さが変わります。
理解の確認
ある一次変換で、 が へ、 が へ移りました。この変換を表す行列はどれでしょうか。
- 上の行に 、下の行に を並べた行列
- 第 1 列が 、第 2 列が の行列
- 行き先が 2 つあるので、行列 1 つでは決まらない
他の話題とのつながり
回転の行列を深く掘るのは、回転行列の記事です。角を足すと行列の積になることから加法定理が出てくる話や、3 次元での回転を扱います。
行列式が面積や体積を表す仕組みは、行列式が表すものの記事にあります。符号が向きを表すことも、そちらで詳しく見ます。
長さと角度を保つ変換だけを集めると、直交行列という一群になります。回転と鏡映がその中身で、直交行列の記事の主題です。
射影のように潰れる変換については、潰れた先と潰れた方向を調べる道具立てがあります。線形写像の像と核として、あとの記事で扱います。













基本ベクトルの行き先は、行ではなく列に並べます。Ae1 が第 1 列、Ae2 が第 2 列です。行に並べてしまうと、成分が入れ替わった別の変換になります。なお 2 本の行き先が決まれば変換は 1 つに定まるので、3 番目のような不定さは生じません。