サラスの方法|3 次行列式をたすき掛けで計算する
3 次の行列式は、6 つの積の足し引きで書けます。この 6 項を斜めの線で覚える方法がサラスの方法です。
たすき掛けとも呼ばれます。2 次の を 3 次に広げた形で、手で計算するには速くて確実です。
ただし 3 次専用です。同じ図を 4 次にあてはめると、答が合わなくなります。
<svg viewBox="0 0 460 230" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="230" y="24" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">右に 2 列書き足すと、6 本の線がまっすぐ引けます</text>
<rect x="80" y="50" width="180" height="135" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.06"></rect>
<rect x="80" y="50" width="300" height="135" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></rect>
<line x1="260" y1="50" x2="260" y2="185" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="98" y1="66" x2="242" y2="180" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<line x1="158" y1="66" x2="302" y2="180" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<line x1="218" y1="66" x2="362" y2="180" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<line x1="98" y1="180" x2="242" y2="66" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="158" y1="180" x2="302" y2="66" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="218" y1="180" x2="362" y2="66" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<text x="110" y="83" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">a</text>
<text x="170" y="83" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">b</text>
<text x="230" y="83" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">c</text>
<text x="290" y="83" font-size="13" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">a</text>
<text x="350" y="83" font-size="13" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">b</text>
<text x="110" y="128" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">d</text>
<text x="170" y="128" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">e</text>
<text x="230" y="128" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">f</text>
<text x="290" y="128" font-size="13" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">d</text>
<text x="350" y="128" font-size="13" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">e</text>
<text x="110" y="173" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">g</text>
<text x="170" y="173" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">h</text>
<text x="230" y="173" font-size="13" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">i</text>
<text x="290" y="173" font-size="13" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">g</text>
<text x="350" y="173" font-size="13" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">h</text>
<line x1="100" y1="205" x2="125" y2="205" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<text x="131" y="209" font-size="11" fill="#9a9a9a">右下がりは足す</text>
<line x1="245" y1="205" x2="270" y2="205" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<text x="276" y="209" font-size="11" fill="#9a9a9a">右上がりは引く</text>
</svg>サラスの方法とは
3 次の正方行列の行列式を、斜めに並んだ 3 つの成分の積 6 組で求める方法です。
このとき行列式は次の式で計算できます。
右下がりに並ぶ 3 組が正、右上がりに並ぶ 3 組が負です。どの項も、各行から 1 つずつ、各列から 1 つずつ成分を取っています。
図で覚える
はじめの 3 項は、左上から右下へ向かう線の上にあります。行列からはみ出したら、反対側の列に回り込みます。
残りの 3 項は、右上から左下へ向かう線の上にあります。こちらも同じように回り込みます。
行列を円筒に巻きつけて、左端と右端をつないだ図を思い浮かべると分かりやすくなります。回り込みは、その円筒を一周する動きにあたります。
右に 2 列書き足す書き方
回り込みを頭の中でやるかわりに、第 1 列と第 2 列をそのまま右に書き足す方法があります。3 行 5 列の並びになります。
こうすると 6 本の線がすべてまっすぐ引けます。左上から右下へ引いた 3 本の積を足し、右上から左下へ引いた 3 本の積を引きます。
第 1 行と第 2 行を下に書き足しても同じです。手が慣れているほうを使えば足ります。
例:3 次の行列式を計算する
次の行列で計算します。
右下がりの 3 項は 、、 です。合計は になります。
右上がりの 3 項は 、、 です。合計は です。
引き算をして が得られます。
例:負の成分を含む行列
符号が混ざると間違えやすくなります。次の行列で確かめます。
右下がりは と、 を含む 2 項です。合計は になります。
右上がりは 、、 で、合計は です。
したがって です。負の成分どうしの積が正になる点だけ、落ち着いて数えれば済みます。
例:0 が多い行列
を含む項はその場で消えるので、実際に計算する項はぐっと減ります。
右下がりで生き残るのは だけです。ほかの 2 項はどちらも を含みます。
右上がりで生き残るのは だけです。
差を取って になります。6 項のうち 4 項が消えるので、実質は 2 つの掛け算です。
2 次のたすき掛けとの関係
2 次の行列式 も、右下がりから右上がりを引く形をしています。項の数は です。
3 次では項が に増えます。次数が上がるほど項の数が急に増えることが、ここから見え始めます。
なぜ 6 項なのか
行列式の定義は、各行と各列から 1 つずつ成分を選ぶ取り方すべてにわたる和です。3 次ならその取り方は 通りあります。
符号は、選び方が表す置換の偶奇で決まります。偶置換なら正、奇置換なら負です。
サラスの 6 本の線は、この 6 通りをちょうど過不足なく拾っています。だから定義そのものを書き下した式になっているわけです。
余因子展開と同じ結果になる
第 1 行で余因子展開すると、2 次の行列式が 3 つ現れます。それぞれを展開して整理すると、サラスの 6 項に一致します。
計算の道筋が違うだけで、得られる式は同じです。どちらを使っても構いません。
例:余因子展開と突き合わせる
さきほどの を第 1 行で展開します。
括弧の中はそれぞれ 、、 です。掛けると 、、 になります。
足し合わせると で、サラスの方法の答と一致します。符号を間違えていないかを確かめるには、この突き合わせがいちばん確実です。
例:行を入れ替えて符号を確かめる
さきほどの の第 1 行と第 2 行を入れ替えます。
右下がりは 、、 で、合計は です。
右上がりは 、、 で、合計は になります。
差は です。もとの と符号だけが変わりました。入れ替えを 1 回すると符号が反転する、という性質のとおりです。
4 次には拡張できない
4 次の行列式は 項の和です。ところが斜めの線は、右下がりに 4 本、右上がりに 4 本の合計 8 本しか引けません。
8 項では 24 項を表せません。同じ図をあてはめると、16 項が抜け落ちた別の値が出てきます。
<svg viewBox="0 0 460 190" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<text x="230" y="22" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">必要な項の数と、斜めの線で作れる項の数</text>
<text x="105" y="62" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="end">3 次</text>
<rect x="115" y="50" width="60" height="16" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.5"></rect>
<text x="183" y="63" font-size="11" fill="#9a9a9a">必要な項 6</text>
<rect x="115" y="72" width="60" height="16" fill="#9a9a9a" fill-opacity="0.4"></rect>
<text x="183" y="85" font-size="11" fill="#9a9a9a">線で作れる項 6</text>
<text x="105" y="127" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="end">4 次</text>
<rect x="115" y="115" width="240" height="16" fill="#1b81e0" fill-opacity="0.5"></rect>
<text x="363" y="128" font-size="11" fill="#9a9a9a">必要な項 24</text>
<rect x="115" y="137" width="80" height="16" fill="#9a9a9a" fill-opacity="0.4"></rect>
<text x="203" y="150" font-size="11" fill="#9a9a9a">線で作れる項 8</text>
<text x="230" y="180" font-size="11" fill="#9a9a9a" text-anchor="middle">3 次でちょうど足りるのは、たまたまです</text>
</svg>例:4 次で試すと合わない
逆対角線上だけが の行列で試します。
この行列式は です。行を 2 回入れ替えると単位行列になり、符号が 2 回変わってもとに戻るからです。
ところがサラスの図をまねて 8 本の線を引くと、右下がりの 4 本はすべて を含み、和は になります。
右上がりのほうは 1 本だけが を与えます。差を取ると で、正しい値と符号すら合いません。
大きな行列では別の方法を使う
4 次以上では、行基本変形で上三角に整えてから対角成分を掛けるのが基本です。手数は 程度で済みます。
が多い行や列があるときは、そこで余因子展開すると速くなります。項がまとめて消えるからです。
定義どおりに 項を並べる方法は、次数が上がるとすぐ手に負えなくなります。 次で 項、 次では 万項を超えます。
平行六面体の体積
3 本の空間ベクトルを行に並べた行列式は、それらが張る平行六面体の符号つき体積を表します。
スカラー三重積とも呼ばれます。絶対値が体積で、符号は 3 本の向きが右手系か左手系かを教えます。
行列式が になるのは、3 本が同じ平面に乗るときです。体積が潰れることと、一次従属であることが同じ意味になります。
例:平行六面体の体積を求める
さきほどの の行を、3 本のベクトルと見ます。、、 です。
行列式は でした。したがって体積は です。
符号が負なので、この 3 本は左手系に並んでいます。順序を 2 本入れ替えれば、符号は正に変わります。
例:体積が 0 になる場合
3 本目を、前の 2 本の和に取り替えてみます。 です。
右下がりは 、、 で合計 になります。右上がりは 、、 で、こちらも合計 です。
差は です。3 本目が前の 2 本で書けてしまうので、平行六面体が平面に潰れています。
検算のこつ
行や列を入れ替えると符号が変わります。答が合わないときは、まず入れ替えの回数を数え直してください。
同じ行が 2 つあれば行列式は です。計算前に気づけば、6 項の掛け算をせずに済みます。
ある行を定数倍すると、行列式も同じ数だけ倍になります。共通因数をくくり出してから計算すると、数が小さくなって間違いが減ります。
他の話題とのつながり
置換による行列式の定義は、置換と行列式の定義の記事にあります。サラスの方法は、その定義を 3 次で書き下したものです。
余因子展開や、多重線形性・交代性といった性質は、それぞれの記事で扱っています。クラメルの公式では 3 次の行列式を何度も計算するので、この方法が役に立ちます。
外積との関係も深く、3 次の行列式は 2 本のベクトルの外積ともう 1 本の内積として書けます。












