素イデアルごとに確かめれば足りる - 加群の局所大域原理
加群が かどうかは、素イデアルごとに調べれば決まります。すべての素イデアル で なら [1]。
単射も全射も完全性も平坦性も同じ。大域の主張を、局所環という扱いやすい場所へ落とせます。
局所化は完全関手である
局所化 は 上平坦です[2]。完全列を局所化しても完全列のまま。
この列を で送ると、また短完全列になります。核も余核も局所化と交換する。
この交換が、これから見るすべての「局所で足りる」の元になります。
であることは局所で決まる
ならどの局所化も 。これは明らかです。問題は逆向き。
と仮定して、 でない元 をとります。消滅イデアル を考える。
なので です。真のイデアルなので、ある極大イデアル に含まれます。
この で局所化すると になる。もし なら、 の外にある で となり、 と矛盾します。
つまり なら、 となる極大イデアルが必ずある。
対偶をとると、すべての極大イデアルで消えていれば加群自体が になる。
証明に出てきたのは消滅イデアルと極大イデアルだけ。ネーター性も有限生成性も要りません。
例: の局所化
を素数ごとに局所化します。 では が可逆なので、。
だから です。同じように 。
では 自体が可逆になり、 になります。
となる を集めた集合が台です。ここでは の 2 点だけ。
どこかの素イデアルで局所化が生き残る。加群は でない
すべての素イデアルで消える。加群は になる
単射・全射・完全性
写像 が単射であることは、 と同じです。核は局所化と交換します。
だから が単射であることと、すべての で が単射であることが一致する[1]。
全射は余核で同じ議論。全単射も、単射と全射を合わせれば出ます。
複体 が完全であることも局所的です。核と像がどちらも局所化と交換するためです。

平坦性も局所的
が平坦であることと、すべての素イデアルで が 上平坦であることは同値です[4]。極大イデアルだけで確かめても足ります。
平坦性の判定が局所環の話に落ちる。局所環では極大イデアルが 1 つしかないので、扱いがずっと軽くなります。
有限表示の加群なら、平坦性は局所自由性と同じになる[4]。各点で自由になっていれば平坦だと分かります。
これらはすべて局所的な性質です[2]。大域の主張を、点ごとの主張に置きかえられる。
極大イデアルだけで足りる
素イデアル全体で確かめる必要はありません。極大イデアルだけで同じ結論が出ます[1]。
理由は簡単です。任意の素イデアル は、ある極大イデアル に含まれます。 なら はその局所化なので、やはり 。
確かめる相手が減るので、実際の計算では極大イデアル版を使います。
有限個の元で覆う版
もっと粗い覆い方でも足ります。 が単位イデアルを生成するとしましょう。
このとき と、すべての で が同値になります。有限個で済む点が効きます。
幾何の言葉なら、 を有限個の基本開集合で覆ったことにあたる。素イデアルは無限にあっても、確かめる場所は 個。

局所的でない性質もある
すべてが局所で決まるわけではありません。自由性がその例です。
デデキント整域の単項でないイデアルを とします。 は各局所化で階数 の自由加群になる。局所環では単項イデアルになるためです。
ところが 自体は自由ではありません。自由なら単項になってしまう。
かどうか、単射・全射、完全性、平坦性。点ごとの情報を貼り合わせれば決まる
自由性、同型かどうか。貼り合わせのねじれが大域にだけ現れる
局所自由でありながら自由でない。この差を測る量が因子類群や Picard 群になります。
使い方の型
局所大域原理の使い道は、証明を局所環へ移すことです。局所環には道具が多い。
極大イデアルが 1 つしかないので、中山の補題が素直に効きます。生成元の個数も剰余体上の次元で測れる。
大域の主張を立てる
極大イデアルで局所化する
局所環の道具で示す
局所大域原理で大域へ戻す
証明を書くときは、最初に「 を任意の極大イデアルとする」と置いて始めます。あとは局所環の議論だけ。
例:ねじれなしを局所で見る
を整域、 を 加群とします。 がねじれなしであることは局所的です[3]。
ねじれ部分加群 は局所化と交換します。 となる。
だから を示すには、各 で を見れば足ります。
例:有限生成のとき局所化が消える条件
が有限生成なら、 と「 の中に 全体を消す元がある」が同値です[2]。
生成元 のそれぞれに をとり、積 を作る。この が を消します。
有限生成でないと積がとれません。無限個の分母を一度に払えないためです。
加群 の台に入る素イデアルはどれですか。
- だけ
- と
- すべての素イデアル
かどうかを点ごとに見る。この 1 つの原理から、単射も完全性も平坦性も同じ形で従います。












12=22⋅3 なので、p=2 と p=3 では 12 が可逆になりません。p≥5 では 12 が単元になり、局所化は 0 になります。