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無駄のない分解はただ一つ〜極小自由分解と Betti 数

加群を自由加群でつないで書き表す方法が自由分解です。とり方は無数にありますが、無駄を削ると 1 つに決まります[1]。

そこに現れる自由加群の階数が Betti 数。加群に付いた番号として、環と加群の情報を運びます。

生成元だけでは足りない

有限生成加群 に生成元 をとると、全射 ができます。

これで終わりにはできません。生成元のあいだに関係があるためです。 という等式が成り立つことがある。

関係の全体も加群になります。これを syzygy 加群と呼びます[5]。ギリシャ語で「連れ添うもの」という意味の語から来ています。

syzygy 加群にも生成元をとり、その関係を調べる。この繰り返しが自由分解です。

無駄を削る

自由分解のとり方は 1 つではありません。生成元を余分にとれば、いくらでも太らせられます。

削るための条件が極小性です。局所環 や次数付き環で、各写像の行列成分がすべて に入っていること[1]。

成分に単元があると、その行と列を掃き出せます。 の恒等写像がひと組ぶん現れていて、そこは削れる。

成分がすべて に入る自由分解を 極小自由分解 と呼びます。

削れる場所がもうない状態。各段の階数がいちばん小さくなる。

極小自由分解は、同型を除いて一意に決まります[1]。だから各段の階数が、加群だけで決まる不変量になる。

Betti 数

極小自由分解の第 段の階数を と書き、Betti 数と呼びます。

同じものが Tor でも書けます[2]。

理由は極小性です。極小分解を で送ると、写像の成分が に入っているので全部 になる。残るのは各段の ベクトル空間だけです。

だから Tor の次元がそのまま階数になります。分解のとり方によらないことも、この式から言える。

例:剰余体を分解する

で をとります。生成元は 個。

関係は と の 2 本です。次の段は階数 。

その 2 本のあいだの関係は の 1 本だけ。階数 で終わります。

Betti 数は です。これが Koszul 複体[4]。

変数が 本なら、階数は二項係数になります。 と並ぶ。

が正則列なら、Koszul 複体が の自由分解になります[4]。変数はいつでも正則列なので、この形が出る。

長さは変数の本数で止まる

Hilbert の syzygy 定理が、分解の長さを抑えます[1]。

上の有限生成加群は、長さ 以下の自由分解を持ちます。 段目の syzygy 加群が必ず自由になる。

1890 年の論文で示された結果です[1]。ホモロジー代数という分野ができる前の、その最初期の定理にあたります。

環の側で言えば、大域次元が になるということ。有限の大域次元を持つことと正則であることが対応します[3]。

多項式環

分解は必ず有限段で止まる。長さは変数の本数まで

特異点を持つ環

分解が無限に続くことがある。剰余体の Betti 数が増え続ける

次数付き Betti 数

次数付き環なら、階数だけでなく次数まで見られます。 の生成元が何次に現れるかを数える。

を、第 段の 次の生成元の個数とします。これを表に並べたものが Betti 表です。

表を見ると、分解の形が一目で分かります。どの段にどの次数の関係が現れるか。

例:ねじれ 3 次曲線

のねじれ 3 次曲線をとります。定義イデアル は 2 次式 3 本で生成されます。

その 3 本のあいだの関係は 2 本。分解は次の形で終わります。

生成元が 3 個で関係が 2 個。生成元より関係のほうが少ない、という形が特徴です。

3 本の 2 次式は、 行列の 次の小行列式として書けます。行列 1 つで分解が決まっている。

Hilbert-Burch の定理

いまの形は偶然ではありません。余次元 の Cohen-Macaulay イデアルは、いつでもこの形になります[6]。

の行列をとり、その最大次数の小行列式を並べる。それが生成元になります。

1890 年に Hilbert が多項式環で示し、1968 年に Burch が一般化しました[6]。

余次元 1

イデアルは単項。分解は の形になる

余次元 2 で Cohen-Macaulay

行列の小行列式で書ける。Hilbert-Burch の形になる

Betti 数から何が読めるか

Betti 数が並ぶと、そこから別の不変量が出てきます。

分解の長さが射影次元になる。
射影次元と深さを足すと環の深さになる。
次数付き Betti 数の交代和から Hilbert 級数が出る。
は極小生成元の個数。
は極小な関係の本数。
すべての が でない段が続けば、分解は無限に続く。

Hilbert 級数は交代和で書けます。各段の生成元の次数を、符号を変えながら足し合わせる形です。

分解が終わらない場合

多項式環では必ず止まりますが、一般の環ではそうなりません。

で をとります。 を掛ける写像が延々と続き、分解は無限に伸びる。Betti 数はずっと のままです。

止まるかどうかが正則性と結びついています。剰余体の分解が有限で終わる環が、正則局所環です。

で の Betti 数はどれですか。

__RESULT__

変数 3 本の Koszul 複体になるので、階数は二項係数の です。

無駄を削ると形が 1 つに決まる。その形に付いた数が、加群と環の両方を測る物差しになります。

参考文献

David Eisenbud, Jessica Sidman, *Lectures on the Geometry of Syzygies*
Resolution - Encyclopedia of Mathematics
Homological dimension - Encyclopedia of Mathematics
Koszul complex - Encyclopedia of Mathematics
Syzygy - Encyclopedia of Mathematics
Hilbert-Burch theorem - Wikipedia
生成元をとり、その関係をとり、関係の関係をとる。この繰り返しが自由分解で、行列の成分がすべて極大イデアルに入るところまで削ると、同型を除いて一つに決まります。各段の階数が Betti 数で、$\dim_k \mathrm{Tor}_i(M,k)$ とも書ける。$k[x_1,\dots,x_n]$ の剰余体では Koszul 複体が現れ、階数が二項係数になります。長さを変数の本数で抑える Hilbert の syzygy 定理、ねじれ 3 次曲線の分解、Hilbert-Burch の定理、そして $k[x]/(x^2)$ で分解が終わらない話まで。