単項式イデアルが単体複体を決める、Stanley-Reisner 環
変数の積だけで生成されたイデアルは、格子点の階段として絵に描けます。指数が か しか現れない場合には、階段がそのまま単体複体になる。
この対応で作られる環が Stanley-Reisner 環です[4]。組合せ論の対象と可換環が、片方から片方へ完全に翻訳されます。
単項式イデアルは階段で見える
が単項式で生成されるとき、所属の判定が項ごとに分かれます[5]。
多項式 が に入ることと、 の各項が に入ることが同値。ふつうのイデアルでは成り立たない性質です。
生成元は有限個でとれます。Dickson の補題から従い、しかも極小な単項式生成系は一意に決まる[5]。
2 変数なら、指数の組 を格子点に置いた図で全体が見えます。イデアルの元は右上へ広がる領域、極小生成元は階段の内側の角。

例:階段の外側が商の基底になる
をとります。 に入らない単項式は 、、、 の 4 個。
これらが の 上の基底です。階段の外側を数えるだけで次元が出ます。
一般のイデアルでこうはいきません。単項式イデアルの計算が軽い理由は、この見通しのよさにあります。
平方無縁なら図形になる
指数が か しか出ない単項式を平方無縁と呼びます。 は平方無縁、 はそうでない。
平方無縁な単項式は、変数の部分集合と 1 対 1 に対応します。 なら 。
ここで単体複体を思い出します。頂点集合 の部分集合を集めたもので、部分集合をとる操作で閉じている族です[3]。
に入る部分集合を 面、入らない部分集合を非面と呼びます。
面の面はまた面。この閉じ方だけが単体複体の条件。
面は残し、非面は殺す。この方針でイデアルを作ります。
Stanley-Reisner イデアル
単体複体 に対し、非面から作った単項式でイデアルを生成します[1]。
商を と書き、Stanley-Reisner 環と呼びます[1]。面環という呼び方もある。
対応は完全な 1 対 1 です。 上の単体複体と、平方無縁な単項式イデアルが過不足なく対応します[1]。
生成元は極小な非面だけで足ります。非面の部分集合も非面なので、大きいものは自動的に入る。

例:三角形の境界
頂点 個、辺 本、内部の面はなし。この の非面は だけです。
超曲面が出てきました。幾何としては 3 枚の座標平面の合併です。
内部の面まで入れると非面がなくなり、。多項式環そのものになります。
素分解はファセットに対応
は素イデアルの交わりに分解します[1]。極大な面をファセットと呼び、ファセットごとに 1 つ素イデアルが立ちます。
面に入らない変数を殺す、という形です。平方無縁な単項式イデアルは、いつでも素イデアルの交わりになる。
次元は面の次元で決まる
の次元は、いちばん大きい面の要素数から を引いた値です。 のクルル次元は、それに を足した値になる[1]。
三角形の境界なら なので、 の次元は 。座標平面の次元と合います。
素分解から見ても同じです。いちばん背の低い素イデアル、つまりいちばん大きいファセットが次元を決める。
Hilbert 級数は面の個数を数える
次元の面の個数を と書きます。 は空集合のぶん。
Hilbert 級数は、この数え上げそのものになります[4]。
三角形の境界なら 、、。代入すれば級数が具体的に書けます。
環の側の不変量が、複体の面を数えた値で書けている。翻訳が成り立っている証拠です。
面の個数、連結性、ホモロジー。図形を数える言葉
次元、Hilbert 級数、深さ、Cohen-Macaulay 性。環を測る言葉
Reisner の判定法
が Cohen-Macaulay になる条件が、複体のホモロジーで書けます[4]。
すべての面 について、リンク の簡約ホモロジーが次元未満で消えること。これが Reisner の判定法です。
の場合を見ると、まず が連結でなければならないと分かります。 が連結性そのものだからです。
連結で、低い次元のホモロジーが消えている。Cohen-Macaulay になる
連結でないので 。Cohen-Macaulay にならない
例:Cohen-Macaulay でない形
頂点 で、面は 、、、 とします。辺 1 本と、離れた点 1 個。
非面は と 、それに 。極小なものだけとって次のイデアルになります。
幾何で見ると、平面 と 軸の合併です。次元 の成分と次元 の成分が混ざっている。
次元がそろわない環は Cohen-Macaulay になりません。複体が連結でないことと、環の性質が対応しています。

体によって答えが変わる
Cohen-Macaulay 性は、係数体の標数に依存します。同じ複体でも、 をとりかえると結果が変わる。
実射影平面の三角形分割が代表例です。標数 の体では Cohen-Macaulay になりますが、標数 ではなりません。
ホモロジーがねじれを持つためです。ねじれは標数で見え方が変わる。
上限予想への道
Stanley は、この翻訳を使って凸多面体の面の個数に関する上限予想を解きました[4]。
面の個数という組合せ論の問題を、Cohen-Macaulay 環の Hilbert 関数の問題に置きかえる。環の側の制約が、そのまま面の個数の上限になります。
複体の面を数える問題を立てる
Stanley-Reisner 環に翻訳する
Cohen-Macaulay 性から Hilbert 関数の制約を出す
面の個数の上限として読み戻す
組合せ論的可換環論という分野は、この成功から立ち上がりました。
Alexander 双対
平方無縁な単項式イデアルには、もう 1 つの対応があります。複体の補集合をとる操作です[2]。
と定めると、 が の Alexander 双対になる。
極小生成元と随伴素イデアルが入れかわります。生成元の情報と分解の情報が、双対を通じて行き来する。
頂点 上で、面が空集合と 3 個の頂点だけの複体があります。 はどれですか。
面を数えるか、環を測るか。同じ対象を 2 つの言葉で書けることが、この理論の働きどころです。












辺がすべて非面なので、2 元の積がすべて生成元になります。3 元の積はそれらの倍数なので不要です。